古典
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか (こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか) 壬生忠見 〈現代語訳・口語訳〉 わたしが恋をしているという噂が、もう世間の人たちの間には広まってしまったようだ…
忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで (しのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで) 平兼盛 〈現代語訳・口語訳〉 人に知られまいと恋しい思いを隠していたけれど、とうとう隠し切れずに顔色に出てしまっ…
浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき (あさぢふの をののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこひしき) 参議等(源等) 〈現代語訳・口語訳〉 浅茅の生えた寂しく忍ぶ小野の篠原ではありませんが、あなたへの思いを忍んではい…
笹の葉は み山もさやに さやげども 我れは妹思ふ 別れ来ぬれば (ささのはは みやまもさやに さやげども あれはいもおもふ わかれきぬれば) 柿本人麻呂 万葉集・巻二・133 〈現代語訳・口語訳〉 笹の葉は山に満ちてざわざわと風に鳴っているが、私の心は一…
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな (わすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな) 右近 〈現代語訳・口語訳〉 あなたに忘れられる我が身のことは何ほどのこともありませんが、ただ神にかけて、私をいつ…
春の園 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ娘子 (はるのその くれなゐにほふ もものはな したてるみちに いでたつをとめ) 大伴家持 万葉集・巻十九・4139 〈現代語訳・口語訳〉 春の苑に紅が照り映える。桃の花の下の輝く道に、現れ立つ乙女。
白露に 風の吹きしく 秋の野は しらぬきとめぬ 玉ぞ散りける (しらつゆに かぜのふきしく あきののは しらぬきとめぬ たまぞちりける) 文屋朝康 〈現代語訳・口語訳〉 草葉の上に落ちた白露に風がしきりに吹きつけている秋の野のさまは、まるで糸に通してと…
稲つけば かかる我が手を 今夜もか 殿の若子が 取りてなげかむ (いねつけば かかるあがてを こよひもか とののわくごが とりてなげかむ) 東歌(未勘国) 万葉集・巻十四・3459 〈現代語訳・口語訳〉 稲を舂くとあかぎれが切れる私の手を、今夜も若殿さま…
夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ (なつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ) 清原深養父 〈現代語訳・口語訳〉 夏の夜は、まだ宵のうちだと思っているのに明けてしまったが、こんなにも早く夜明けが…
香具山は 畝火雄々しと 耳成と 相争ひき 神代より かくにあるらし 古も しかにあれこそ うつせみも 妻を争ふらしき (かぐやまは うねびををしと みみなしと あひあらそひき かみよより かくにあるらし いにしえも しかにあれこそ うつせみも つまをあらそふ…
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける (ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける) 紀貫之 〈現代語訳・口語訳〉 さて、あなたの心は昔のままであるかどうか分かりません。しかし馴染み深いこの里では、花は…
旅にして もの恋しきに 山下の 赤のそほ船 沖を漕ぐ見ゆ (たびにして ものこほしきに やましたの あけのそほふね おきをこぐみゆ) 高市黒人 万葉集・巻三・270 〈現代語訳・口語訳〉 旅にあって、何となく物恋しいのに、山下の赤丹(あかに)を塗った舟が…
誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに (たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに) 藤原興風 〈現代語訳・口語訳〉 友達は次々と亡くなってしまったが、これから誰を友とすればいいだろう。馴染みあるこの高砂の…
君が行く 道のながてを 繰り畳ね 焼きほろぼさむ 天の火もがも (きみがゆく みちのながてを くりたたね やきほろぼさむ あめのひもがも) 狭野弟上娘子(さののおとがみのをとめ) 万葉集・巻十五・3724 〈現代語訳・口語訳〉 あなたのいらっしゃる道の…
久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ (ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづこころなく はなのちるらむ) 紀友則 〈現代語訳・口語訳〉 こんなにも日の光が降りそそいでいるのどかな春の日であるのに、どうして落ち着いた心もなく、花…
筑波嶺の 嶺ろに霞居 過ぎかてに 息づく君を 率寝て遣らさね (つくはねの ねろにかすみゐ すぎかねて いきづくきみを ゐねてやらさね) 東歌(常陸) 作者不詳 〈現代語訳・口語訳〉 筑波山の頂に霞がかかってうごかないように、通りすぎかねて溜息をついてい…
山川に 風にかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり (やまがわに かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ もみじなりけり) 春道列樹 〈現代語訳・口語訳〉 山の中の川に、風が掛けた流れ止めの柵(しがらみ)がある。それは、流れきれないでいる…
我のみや 夜舟は漕ぐと思へれば 沖辺の方に梶の音すなり (われのみや よふねはこぐと おもへれば おきへのかたに かぢのおとすなり) 遣新羅使人 万葉集・巻十五・3624 〈現代語訳・口語訳〉 われわれだけが夜の海を漕いでいると思っていると、沖の方から…
朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 触れる白雪 (あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき) 坂上是則 〈現代語訳・口語訳〉 夜が明ける頃あたりを見てみると、まるで有明の月が照らしているのかと思うほどに、吉野の…
沫雪の ほどろほどろに 降りしけば 奈良の都に 思ほゆるかも (あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならのみやこに おもほゆるかも) 大伴旅人 万葉集・巻八・1639 〈現代語訳・口語訳〉 沫雪がまだらに降りつづくと、平城京がおもわれることよ。 ※沫雪…
ありあけの つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし (ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし) 壬生忠岑 〈現代語訳・口語訳〉 明け方のつきが冷ややかに、そっけなく空に残っているように、あなたが冷たく見えてあ…
ぬばたまの 夜の更けゆけば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く (ぬばたまの よのふけゆけば ひさきおふる きよきかわらに ちどりしばなく) 山部赤人 万葉集・巻六・925 〈現代語訳・口語訳〉 ぬばたまの夜が更けると、久木が生える清らかな川原に千鳥…
心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花 (こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな) 凡河内躬恒 〈現代語訳・口語訳〉 無造作に折ろうとすれば、果たして折れるだろうか。一面に降りた初霜の白さに、いずれ…
楽浪の 志賀の辛崎 幸くあれど 大宮人の 船待ちかねつ (ささなみの しがのからさき さきくあれど おほみやびとの ふねまちねつ) 柿本人麻呂 万葉集・巻一・30 〈現代語訳・口語訳〉 楽浪の志賀の唐崎は変わらずあるのに、大宮人を乗せた船はいつまで待って…
山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば (やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば) 源宗于朝臣 〈現代語訳・口語訳〉 山里はいつの季節でも寂しいが、冬はとりわけ寂しく感じられる。尋ねてくる人も途絶…
油火の 光りに見ゆる 吾がかづら 百合の花の 笑まはしきかも (あぶらひの ひかりにみゆる わがかづら さゆりのはなの ゑまはしきかも) 大伴家持 万葉集・巻十八・4086 〈現代語訳・口語訳〉 燈火の光の中に見える私の蘰(かつら)、この百合の花がほほえま…
みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きちてか 恋しかるらむ (みかのはら わきてながるる いづみがは いつみきとてか こひしかるらむ) 中納言兼輔 〈現代語訳・口語訳〉 みかの原を湧き出て流れる泉川よ、その「いつ」という言葉ではないが、その人をいつ…
君待つと 我が恋ひ居れば 我が宿の 簾動かし 秋の風吹く (きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく) 額田王 万葉集・巻四・488 〈現代語訳・口語訳〉 君を待つとて恋しく思っていると、わが家のすだれを動かして秋の風が吹く…
小倉山 峰の紅葉ば 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ (をぐらやま みねのもみぢば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ) 貞信公(藤原忠平) 〈現代語訳・口語訳〉 小倉山の峰の美しい紅葉の葉よ、もしお前の哀れむ心があるならば、散るのを急…
たまきはる 宇智の大野に 馬並めて 朝踏ますらむ その草深野 (たまきはる うちのおおのに うまなめて あさふますらむ そのくさぶかの) 中皇命 〈現代語訳・口語訳〉 天皇は今頃、宇智の大野に馬をたくさん並べて朝の草が深く繁るのを馬の脚に踏ませておい…