野島春樹の沈思黙考

心に移ろいゆくよしなしごと

宝井其角(たからいきかく)

宝井其角の生涯

 

宝井其角(たからい きかく)は、江戸時代前期の俳諧師であり、松尾芭蕉の門下生として特に有名です。彼の人生や作品は、江戸文化の華やかさと俳諧の進化を象徴しています。

 

生涯の詳細

 

其角は1661年(寛文元年)に江戸の堀江町で生まれました。本名は竹下侃憲(たけした ただのり)で、近江国膳所藩の御殿医である竹下東順の長男でした。彼は15歳で松尾芭蕉に入門し、蕉門十哲の一人として活躍しました。彼の俳諧は、芭蕉の「閑寂」な作風に影響を受けつつも、独自の「洒落風」という軽妙で口語的なスタイルを確立しました。この作風は江戸の町人文化や日常生活を反映したもので、後の俳諧に大きな影響を与えました。

 

代表作と作風

 

其角の代表的な句集には『虚栗(みなしぐり)』『続虚栗』『枯尾花』などがあります。彼の句は江戸の風情や人々の生活を巧みに描写し、以下のような名句が知られています。

 

  • 「鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春」
  • 越後屋にきぬさく音や衣更」
  • 「夕涼みよくぞ男に生まれける」

 

これらの句は、江戸の活気や季節感を鮮やかに表現しています。

 

人物像と逸話

 

其角は酒好きで知られ、豪胆かつ情け深い性格だったと言われています。彼の逸話として有名なのは、赤穂浪士の討ち入り前夜に大高源吾と俳句を交わしたという話です。このエピソードは後世の創作とされていますが、其角の人間味を感じさせるものです。

また、其角は画家の英一蝶や俳優の二代目市川團十郎など、当時の文化人とも交流が深く、江戸文化の中心的存在でした。

 

晩年と影響

 

其角は47歳という若さで亡くなりましたが、彼の作風や俳諧の地盤は弟子たちに受け継がれ、江戸俳諧の発展に寄与しました。彼の辞世の句「鶯の暁寒しきりぎりす」は、彼の人生と俳諧への情熱を象徴しています。

 

宝井其角の俳句と影響

 

俳句の特徴と作風

 

其角の俳句は、江戸の町人文化や日常生活を反映した「洒落風」という独自のスタイルで知られています。この作風は、軽妙で親しみやすい口語調を特徴とし、以下のような要素が含まれます。

 

  1. 日常の描写 江戸の町の活気や人々の生活を詠み込むことで、当時の文化や風俗を鮮やかに伝えています。
  2. 季節感 季語を巧みに使い、四季折々の情景を詠むことで、自然との調和を表現しています。
  3. ユーモアと機知 洒落や軽妙な表現を取り入れることで、俳句に遊び心を加えています。

 

代表的な俳句

 

以下は其角の代表的な俳句の一部です。

 

  • 「鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春」
    江戸の町の賑わいと春の訪れを象徴する句です。
  • 越後屋にきぬさく音や衣更」
    呉服屋の情景を描き、更衣の季節を感じさせる句です。
  • 「夕涼みよくぞ男に生まれけり」
    夏の夕涼みを楽しむ男性の自由さを詠んだ句で、江戸の町人文化を反映しています。

 

俳句への影響

 

其角の俳句は、江戸俳諧の発展に大きな影響を与えました。彼の「洒落風」は、後の俳諧師たちに受け継がれ、江戸文化の一部として定着しました。また、其角の弟子たちは彼の作風を継承し、俳諧の地盤をさらに広げました。

 

宝井其角の生きた時代

 

宝井其角(たからい きかく)が生きた江戸時代前期は、政治的安定と文化的繁栄が特徴的な時代でした。

 

政治と社会

 

  • 徳川幕府の統治 江戸時代は徳川家康が開いた幕府による封建制が確立され、戦国時代の混乱を経て平和な時代が訪れました。其角が生まれた1661年は、徳川家綱が将軍を務めており、幕府の統治が安定していました。
  • 元禄時代の繁栄 其角が活躍した元禄時代(1688年~1704年)は、経済的な繁栄と町人文化の発展が顕著でした。この時期には、商業や物流が発展し、江戸や上方(大阪・京都)が文化の中心地となりました。

 

経済と都市

 

  • 貨幣経済の浸透 金銀銭を基盤とした貨幣経済が広まり、商人や町人が経済活動の中心となりました。これにより、都市部では商業が活発化し、江戸は人口が増加して大都市へと成長しました。
  • 江戸の町人文化 江戸の町人たちは、経済的な成功を背景に文化活動を盛んに行い、俳諧や歌舞伎、浮世絵などが発展しました。

 

文化と芸術

 

  • 俳諧の隆盛 松尾芭蕉を中心とした俳諧がこの時期に大きく発展しました。其角は芭蕉の門下生として、俳諧の発展に寄与しました。彼の「洒落風」という軽妙な作風は、江戸の町人文化を反映したもので、後世に大きな影響を与えました。
  • 他の文化活動 歌舞伎や浄瑠璃、浮世絵などもこの時期に発展し、町人たちの娯楽や文化的表現の場となりました。

 

其角の俳句と時代背景

 

其角の俳句には、江戸の町の活気や風情が多く詠まれています。例えば、「鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春」という句は、江戸の賑わいと春の訪れを象徴しています。彼の作品は、当時の社会や文化を知る上で貴重な資料となっています。

 

宝井其角に関する書籍

 

宝井其角に関する書籍には、彼の生涯や俳諧、文化的背景を深く掘り下げたものがいくつかあります。

 

  1. 宝井其角全集』

    • 著者: 今泉準一、石川八朗、鈴木勝忠、古相正美、波平八郎(共編)
    • 出版社: 勉誠社
    • 内容: 其角の俳諧集や資料、年譜、総索引を含む全集です。江戸俳諧の実情や其角の作品を網羅的に収録しており、研究者や愛好家にとって貴重な資料となっています。
  2. 『元禄の奇才 宝井其角

    • 著者: 田中善信
    • 出版社: 新典社
    • 内容: 其角の生涯や作風、俳諧師としての道のりを詳細に解説しています。洒落風俳諧の形成や芭蕉との関係、晩年の活動など、其角の全体像を明らかにする一冊です。

 

これらの書籍は、其角の俳諧や江戸時代の文化を深く理解するための優れた資料です。どちらも専門的な内容を含むため、研究や学習に役立つでしょう。

 

宝井其角(『國文学名家肖像集』)